みなさん,ビーチコーミングって聞いたことありますか?ここでは初代漂着物学会長(故)石井 忠氏による『少年少女のための“ドンブラッコ”講座』を通じて,ビーチコーミングの楽しみ方をご紹介します。挿画ももちろん石井初代会長による直筆です!
『少年少女のための“ドンブラッコ”講座』
作・絵 石井 忠氏
さあ、海へ
海岸へ出るとわくわくする。
オーイ海君、今日は一体なにを運んできたの?黒い帯のように海藻(かいそう)が波うちぎわにそって寄っている。赤や黄色のプラスチックボトルには、ハングル文字が見える。するとこれはお隣の韓国(かんこく)からか、おや椰子(やし)もあるぞ、はるばる東南アジアからだろうか?たっぷり海水をすって、おつかれさま、大変だったね。浜を歩くと、波が運んできた贈り物(プレゼント)、漂着物がいっぱいだ。
海岸を歩く 準備は、
少し海岸を歩いてみよう。今日は日射(ひざ)しが強いようだ。海歩きは帽子をかぶった方がいい。それに砂浜を長時間歩くので、はきなれたズックが疲れない。どれどれ海岸歩きの七道具(ななつどうぐ)は? ポケットにメモ帳、メジャー、すぐ取り出されるようにビニール袋は大小数枚、用意しよう。カメラ(珍しい漂着物はすかさずパッチリだ)手袋(てぶくろ)、小刀(こがたな)、歩く距離によって弁当(べんとう)や水筒(すいとう)の用意を。筆記用は油性のボールペン、マジック、そうそうアメ玉かキャラメル一箱もポケットへ。
用意はいいかい。
こんなものは注意・・・君子危きに近よらず
そうそう漂着物には危険(きけん)なものもあるので気をつけよう。時には海蛇(うみへび)の漂着もあり、猛毒(もうどく)をもった種(しゅ)もあるから、直接さわらないで、棒(ぼう)切(ぎ)れを使って、生死をたしかめた方がいい。(ほとんど弱っている)ゴンズイという魚は鋭(するど)いトゲがあって、トゲに毒腺(どくせん)があり、そこをさわるとものすごい痛(いた)みがある。それに、ごくまれだが、戦時中のものだろう、爆弾(ばくだん)や手榴弾(てりゅうだん)なども漂着していることもある。漁船に備えられていて、期間が切れて海に棄てられた信号弾(しんごうだん)や照明弾(しょうめいだん)もよくある。叩(たた)いたり、ぶっつけたりは絶対にやめよう。“君子 危きに近よらず”だね。
漂着の季節は いつごろ、潮の干満(みちひき)は関係ない?
海は沖に海流が流れ、沿岸流、そして潮の干満(みちひき)(満干)もある。だから漂着物はいつでもある。多い季節となれば、日本海側は冬がいい。それは冬になると大陸の方から、冷たい北西の季節風が吹いて、海が荒れる。沖に黒潮から分かれた対馬(つしま)海流(かいりゅう)が流れ、それに季節風は沿岸近くに黒潮に乗ってきた種々(くさぐさ)のものを寄せるからだ。潮の干満(かんまん)(みちひき)は注意しなくてもいいが、護岸(ごがん)や波消ブロックが置かれているところは、満潮(みちしお)の時は、潮がいっぱいで歩けないから潮時表を見ておいた方が安全だ。
漂着物は届け出るの?
漂着したものはどんなものでも自由に拾えるの? お金なんかは、やはり届け出ないといけないだろうなぁ。江戸時代、船の遭難(そうなん)も多く積荷(つみに)が流れ出たり、材木などは届け出て、半年(六ヶ月)ほど保管して、その間に落とし主からの届(とど)け出がないと、村全体で平等に分け与えられもしたんだよ。
ところによっては、流木など、両手で持てるものはいいが、それ以上のものは村の共有にしたところもある。とにかく昔は漂着物に対してきびしく届け出をさせたんだね。
漂着物の記録・チャンスは一度だけ
漂着物を見つけて、持って帰れるものには、乾燥(かんそう)していたら、マジックで、場所と年月日を書いておくと、帰ってからの整理が便利だ。海亀(うみがめ)とかイルカとか、大きなもので、持って帰れないものは、縦(たて)と横(よこ)の長さを測(はか)り、写真を撮っておけばよい。どうしても骨格(こっかく)標本(ひょうほん)が欲しいなら、砂浜の上の方まで運(はこ)びあげ、穴を掘って埋めておけば、一、二年で白骨化している。その時には目印をきちんとしておこう。興味あるものは、こまかく観察し、メモをとっておこう。拾う場合も、写真も同じだが、チャンスは一度だけという気持ちで接したい。
漂着物の整理
漂着物はまず水洗いをして、二、三日干(ほ)して乾燥(かんそう)さ せる。漂着物の状況によってはもっと長時間干す場合もある。拾った場所、年月日は早目にしておけば後が楽だ。採集に行って、漂着物の乾燥状態によっては、その場で記していたら、便利がいい。帰ってなるだけ早目に、メモをもとにして、専用のノートを一冊作っておけば、それに写して、その日の印象に残ったこと を書いておけば、後々の資料として役立つ。最初から長い文章を書くと、整理が苦になるので、なるだけ簡単なものでよい。
漂着物の処理
採集してきたものは、よく水洗いをし、砂を落としたり、汚(よご)れをとったりする。二、三日真水(まみず)につけておくと塩分(えんぶん)を除(のぞ)くことができる。そして乾燥(かんそう)させる。夏は乾燥が早いが、冬は少し長くかかる。貝殻(かいがら)のなかで巻貝(まきがい)は、 殻長の部分に身が残り、除きにくいので、根気よく中身をかき出すようにしたい。動物の骨も肉を除いて、完全に乾燥させるか、埋めて腐らせて肉や脂肪を除 く。腐れた臭いは大変いやなものだ。また、物によっては完全に汚れや付着物を残して、漂流時の海の様子を知ることもできる。
漂着物の保存法
魚や貝その他、生物類を標本として残しておくには、アルコールやホルマリンに漬けて保存するのがよい。ただ、ホルマリンは劇薬で購入もむつかしいし、皮膚を刺激して有害なので、アルコールをすすめたい。
保存にはガラスの容器がよい。大型のインスタントコーヒーのビンは、口が広く、大きなものも入れることができるので便利だ。コーヒ容器は海岸によく漂着しているから、私はそれを拾ってきて利用している。