会長挨拶

漂着物学会のおすすめ

漂着物学会第三代会長 道田 豊

2021年10月、オンラインで開催された漂着物学会の総会において、第三代の会長に就任しました。初代会長は故・石井忠先生、先代は中西弘樹先生、いずれもこの道の泰斗です。お二人の巨人の後を引き継ぐのは重荷ではありますが、漂着物学会の発展と漂着物学の浸透に力を注ぎたいと思います。

日本は周囲を海に囲まれ、亜熱帯循環、亜寒帯循環、双方の影響が及ぶ環境にあることから、海岸には北から南から様々な由来のものが流れ着きます。海岸漂着物は古くから人々の関心の対象でしたし、「寄り物」などと称して自然からの恵みとされてきた例も各地に見られます。また、柳田國男の「海上の道」に見るように、海流を媒介にした文化のつながりに関する論考の題材でした。「海上の道」には、唱歌「椰子の実」(詞 島崎藤村、曲 大中寅二)の誕生にまつわる経緯も記されています。はるか南方から流れ着く椰子の実の来歴など、海の動態に想像をたくましくさせる素材でもありました。

海岸の環境にも大きな影響をもたらしています。漂着する種子や軽石など、太古の昔から繰り返されてきたはずの現象に加え、近年では人間生活に起因する漂着ごみ、とりわけプラスチックごみの漂着が問題になっています。

このように、漂着物は非常に幅広い学問分野にまたがる題材です。2001年設立の当学会は、会員の多様な関心と自由な発想を大切にする会として、小規模ながらも順調に発展してきています。当初100人程度だった会員数は、2020年に300人を超えました。会員の所属や専門は実に多様です。研究を仕事にしている人はおそらく半数以下で、趣味として浜歩きをしている方々が多数を占めます。趣味とはいえ、それぞれの道の奥は深く、毎年1回開かれる研究発表大会とその翌日のビーチコーミングでは、「貝ならAさん」「プラスチック製品はBさん」「モダマはCさん」などと、それぞれの大家を囲んで和やかに情報交換が行われます。学会として学術誌を定期刊行し、2007年からは日本学術会議の協力学術研究団体に登録されていますが、堅苦しい集まりではなく、幅広くご参加を募っています。

私自身の専門分野は海流です。「様々なものを運ぶ海流」という視点から学会に参加していますが、20年間毎年の大会に参加してきて、毎回新しい刺激を得て視野が広がります。海岸漂着物に関心をお持ちの方々には、その刺激を共有する機会を楽しんでいただきたく、ぜひ学会に入会されますようお誘い申し上げます。Welcome to the world of driftology !

(driftology: 中西前会長の発案を元にした当学会の造語です。ただし、ネイティブの方々にも伝わる語になっています。)